★7

「シナリオのいいエロゲ」が話題になると必ず名前が出るくらいの有名作品。自分はミステリ・サスペンス系には辛口なうえに、これは「泣ける」系のゲームなので、そこまでドハマリはしなかった。ものすごく評判のいいラストのオチもあまり好きじゃない。けど、面白いのは間違いない。

第一印象はなんとなく海外ミステリ・海外ドラマっぽいな、という感じ。3章なんかそれが特に顕著で、ライターの人はジェフリー・ディーヴァーが好きなのかな、と思ったよ。もろにキャサリン・ダンスを参考にしたと思われるヒロインも出てくるし、きっと影響を受けているんだと思う。

これは「車輪の国」でもそうだったんだけど、予定調和をあえて守らない、読み手がどう考えるか誘導してある程度見越した上で、それを裏切るようにどんでん返しをするのがとても上手で感心した。

もっと見たかった変デレヒロイン

ヒロインの宇佐美ハルは最初「こんなにかわいくないヒロインも珍しいなー」と思ってた。何を考えているかさっぱりわからないし、主人公にものすごい敵意をむけているように見えて、その割につきまとってくるので、ともかく不気味な存在だった。

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しかし話が進むにつれてだんだん可愛くなってきていく。変人と思ったらすごくまっとうなヒロインキャラで、なんというか、変デレ?最後にはかなり好きになっていたね!なんや、めっちゃ可愛い乙女な子だったんやん!もっと早くそういう面見せてよ!!

ミステリ系のゲームって紙芝居ADVとは相性のいいジャンルだと思うけど、すべてのキャラを疑わなくてはいけないので、「恋愛もの」とは相性が良くない気がするな。それを上手に逆手に取った作品もあるけど。

ハルはデレてからはかなり可愛い。恋愛慣れしてないのを必死でごまかす感じがとっても良かった。もうちょっと主人公とのイチャイチャなやり取りを見てみたかった気もする。物語の尺の都合上、彼女といい関係になってからはもう怒涛の勢いでクライマックスに突入してしまうのでね。ここは本当にちょっと惜しいと思ったな。

印象の薄い主人公とサブヒロイン

最大のマイナスポイントは主人公がぜんぜん印象に残らないことだったな。最後以外はいてもいなくても変わらないようなヤツでなあ……


読むだけのADVってのはもともと感情移入がしづらいタイプのゲームだ。そのうえでプレイヤーの分身たる主人公が(ラスト以外は)たいして活躍しない、能動的に動かない、面白いことも言わず、となるとあまり感情移入できないので、ちょっとここは残念だったな。八面六臂の活躍を見せた森田くんと比較してしまうせいかもしれないが……

プレイヤーにとって主人公の立ち位置の認識が終盤まで固まらないのも厄介だよね。これは話の構成上仕方ないんだけどさ。

あとはハル以外のヒロインにもあまり魅力を感じられなかったねえ。プレイ後にはもう他のヒロインのことはすっかり忘れたくらいだよ。名前も思い出せない。権三さんももっとメッチャクチャに暴れてくれるかと期待していたんだけど……

魔王の大活躍

ハッキリ言って4章までは大して面白いとも思わなかったが、5章からの盛り上がりはかなりのものだ。特に「魔王」が本格的に動き出してからはメッチャクチャ面白い。

このゲームで一番好きなのは“魔王”です。悪役たる“魔王”のキャラクターが実に良かった。5章からはもう主人公やヒロインの話がどうでもよくなってしまったくらいである。こいつの過去話もっとじっくり読みたかったな。面白かったんじゃないか。

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この魔王さん、4章まではどうも「饒舌さ」ばかりが目立って、ものすごーい「小物な悪役」っぽい感じがしてすごく不安だったんだけど、とんでもない、想像を越えて狂っていた。最高にカリスマ性のある悪役だった。5章で過去が語られてからの展開は衝撃的。

ここまで外道にやってくれると思わなかったね。実に理想的な「狂った悪役」として大活躍してくれた。やっぱり容赦のない悪役って見ていて楽しい、スカッとする。終わり方も実に悪役らしく、本当に気持ちのいい男だった。残酷でクールで狡猾で、でも人間らしさを完全に捨てきれないような……

悪役が魅力的な物語に外れはないよな!このゲームあんまり感情移入して楽しめるキャラがいなかったのでずーっと一歩引いた目線で物語を読み続けていたんだけど、5章中盤からはもう魔王に釘付けでした。



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G線上の魔王【美少女ゲームアワード2008 大賞受賞】